「Cahier de Romi」6回目のお相手は鎌倉在住のフラワーアーティストCHAJIN(チャジン)さんをお招きして、いがらしとCHAJINさんの出会いから毎年5月1日に鎌倉Romi-Unie Confitureで開催している「すずらん屋台」についてのトークをお届けします。
フランスでは5月1日に大切な人の幸せを願って、すずらんの花を贈る習慣があります。「すずらんの日」には、お花屋さんではない一般の人もすずらんを売ることができ、街のあちこちにすずらん屋台や、花カゴを手にしたすずらん売りの姿が見られるそうです。
鎌倉のRomi-Unie Confitureでは、フラワーアーティストのCHAJINさんによる花屋台を年に数回、開催していますが、そのきっかけになったのがこの「すずらんの日」です。2004年、店のオープン年に「すずらん屋台」として始めてから、年々楽しみにしてくださる方が増え、今ではゴールデンウィーク恒例のイベントになりました。
贈った相手だけでなく、贈る人も幸せになる
ろみ 今年もすずらん屋台の季節が近づいてきましたね。
CHAJIN 5月1日は年によってお休みだったり、そうじゃなかったりするけれど、ずっとこの日に続けてきましたね。コロナで1回だけお休みはありましたが。
ろみ フランスでは「すずらんの日」はとてもメジャーなイベントで、子供から大人まで、誰でもすずらんを売ることができる日なんですよね。かわいくて素敵な習慣だなーと思っていたので、お店をオープンした最初のゴールデンウィークに、店の前にあるスペースですずらん屋台ができないかと思って、CHAJINさんに相談したのが最初でした。
CHAJIN 昔、雑誌の『オリーブ』で、フランスのボーイスカウトの子どもたちが、テーブルにすずらんを並べて売っている記事を読んだことがあって、僕も「すずらんの日」があることは知ってたんです。だから、ろみちゃんがやりたいって言うので、「おおーっ、やりましょう」と。
ろみ 知らない人がほとんどだと思ってたから、CHAJINさんが知っていると聞いて、話が早かった。
CHAJIN 必ずひとこと添えて相手に手渡すんだよね。そして、贈る人も贈られる人も幸せになるという。
ろみ そうそう、贈られた人だけでなく、贈る人も幸せになるんですよ!
CHAJIN 最初は、フランスのように、すずらんだけを小さく束ねてたんだけど、すずらんは切り花にしてしまうと1週間ももたない。短命な花なんですよね。だから、すずらんと新緑の季節の花で、白とグリーンの花を束ねてみたり、だんだん進化して今の形になりました。
ろみ お客さんのニーズも反映しましたね。切り花だともたないから、根っこがついたほうがいいとか。
CHAJIN 後年は、鉢植えも出てきたよね。ちなみに今年は、花市場の関係で、鉢植えのすずらんになります。これはこれで、植え替えて増やす楽しみもあるから。
ろみ CHAJINさんは、いつも11時ごろまで花屋台に立って、お客さまひとりひとりに手渡してくださるので、植え替えのアドバイスを知りたい方はそのときがチャンスです。
CHAJIN それで思い出したんだけど、前年に鉢植えを買ってくださったカップルの方が、植え替えがうまくできて花を増やせたと、翌年のすずらん屋台へ報告に来てくださったことがあったの!
そのとき、「あえて、すずらんが増えたとは言わずに、幸せが増えたねって言ってるんです」と伺って、僕も幸せな気分をいただいたということがありました。
ろみ すずらんの幸せは連鎖していくんですね。
確実にお花が買える花屋台にバージョンアップ
ろみ これまですずらんやミモザといった人気の高い花屋台の日は、当日の朝、整理券をお渡ししてご購入いただいてたのですが、前回のミモザ屋台からウェブで先にお申し込みいただいて、当日はお渡しのみという販売スタイルに変えました。
お客さまも整理券のために朝早く店に来る必要がなくなって、確実にお花が買えるので、とても好評でした。
CHAJIN 今でも憶えてるんだけど、遠方から来てくださった方が、自分の前で整理券が終わったことがあって、そのあとも同じことが何回かあって……いつも心苦しいなと思っていたんだよね。
ろみ 花屋台のことはずっと気になっていたけれど、買えるか買えないか分からないから、今まで来たことがなかったという方も、たくさんいらっしゃったようです。
CHAJIN お客さんは安心して買えるようになりましたが、逆に僕はちょっと不安もあったり。いつでも買えるようになったから、僕が花屋台に立っている11時までに誰も来なかったらどうしよう……と。
ろみ 花を買うだけでなく、CHAJINさんに会いたいという方がいつも多いので、早めに来られる方も変わらずいらっしゃいましたね。それでも、これまでよりはゆっくりお越しいただけたんじゃないかな。
CHAJIN オープン前の、まだ屋台に花がたくさん並んでいるところを写真に撮りたいという方もいらっしゃいますから。
ろみ 花がもりもりしているところは、売り始めの時間だけですからね。
CHAJIN すずらん屋台は特に人気で、早いときは45分、だいたい11時前にはなくなることが多いかな。ろみちゃんが店に着く前には売り切れてるなんてこともあったよね。
ろみ 本当に、年々人気が出て、ありがたい限りです。
「黒いラブラドールと花屋台」の夢
ろみ Romi-Unie Confitureですずらん屋台を始めてもうすぐ20年ですが、その前からCHAJINさんとはお付き合いがあって、わたしがジャムの活動を始めた頃、イベント会場に使わせていただいていたのが、鎌倉にあるCHAJINさんのスタジオだったんですよね。
ここから「私の部屋」や六本木ヒルズでジャムを売るきっかけができて、今につながる最初の一歩がスタートしました。
CHAJIN そのあと、ろみちゃんはお店を開いて、雑誌に出たり、本も出し……と、どんどんステップアップしていくので、僕はライブハウスのおやじみたいな気分でしたよ。
ろみ CHAJINさんは、その前から個展をやられたり、雑誌でフラワーアーティストとして活躍されてましたが、もともとお花の道に入ったきっかけは何だったんですか?
CHAJIN 大学生になって一人暮らしを始めたとき、当時は雑貨が大好きで、週末に雑貨屋さんを巡って、自分のお皿を少しずつ増やすのを楽しみにしていたのね。しばらくすると、いろんな食器が重複してきて、使うのは1つだからちょっと持て余す感じになってきた。そのとき、よく読んでた『オリーブ』で……。
ろみ また出た、『オリーブ』(笑)。CHAJINさんは鎌倉生まれ、鎌倉育ちの「女子校上がり」なんですよねー。
CHAJIN はい。鎌倉に「清泉女学院」という学校があって、中学と高校は女子校で、小学校だけ共学なの。と言っても、生徒数は女子のほうが圧倒的に多くて、そんな環境で6年間過ごしたせいか、いまでも女性に囲まれている方が自然体でいられるんだよね(笑)。男ばかりだとなんとなく落ち着かない。
『オリーブ』は、3日と18日の発売日の前夜になるとザワザワするくらい好きで愛読書でした。
ろみ わたしもです!
CHAJIN その『オリーブ』の記事に、「F.O.B COOP」(1981~2015年まで広尾にあった輸入雑貨店)のガラスのジャグに赤いアラジンというチューリップをさした写真があって、そのスタイリングを見て、なんて素敵なんだ、と。
ろみ ジャグが「F.O.B COOP」のものだとすぐわかるところがすごい(笑)。
CHAJIN すぐ、同じジャグを買いに行って、あとはチューリップということになったんですが、その頃住んでいた家の最寄り駅にあった花屋さんが、当時、花にまだ興味がない僕でも、ちょっと違うなと感じさせる店だったの。
ろみ どんなところが違ったんですか?
CHAJIN 今でこそめずらしくなくなったけれど、ふつうの花瓶に花を活けてそれがランダムに置いてあって、毎日水を替えるたびに、ディスプレイが変わるんです。自然の草花なんかも飾ってあって、冷蔵庫は使わない。その花屋さんにならアラジンがあるかも、と思って聞いてみたんです。残念ながら雑誌はもっと前に撮影していたので、チューリップは終わってたんですけれど。
ろみ でも、お花に目覚めた瞬間だったんですね。
CHAJIN そこから、家に余っていたコップに花を飾るようになったの。最初は6畳の部屋に1,2カ所くらいだったのが、最後は7カ所くらいに飾って(笑)。
ろみ 大学生の男の子の部屋としては、相当めずらしかったでしょうね。
CHAJIN このお花屋さんで働いていたスタッフの女の子が「将来、黒いラブラドールと一緒に花屋台を引きたい」と話しているのを聞いて、いい夢だな、と思ったんです。お花屋さんに通ううちに、花と僕の距離がどんどん近づいて、気づいたら花屋台が自分の夢になっていた。
就活もお花屋さんだけにしぼりました。30軒くらい気になった花屋をアポなしで訪ねて行って、1軒だけいいよ、と言ってくれたところがあって、そこから花に携わる仕事が始まったんです。
ろみ 30軒断られても、めげなかったなんてスゴイ!
CHAJIN 数年後にCHAJINとして活動を始めたときに、青山や鎌倉で実際に花屋台をやってみたんですが、なかなか人が近づいてきてくれない(笑)。
仕方ないですよね。お客さんも花屋台に慣れていないから、気持ちはとてもよくわかる。そのとき、もしラブラドールがいたら、犬をきっかけにしてお客さんも近づきやすかったんだろうな、と思いました。
ろみ ラブラドールにもきちんと役割があったんですね。
CHAJIN だから今も花屋台をやると、原点回帰みたいな気持ちになれて、こうしてずっと続いているのは、すごく幸せだな、と思ってるんです。花屋台って、やりたかったことの大事な部分なので。
ろみ よかったです。
花屋台を続けて、気づいたこと
ろみ 最初の10年くらいは年に一度のすずらん屋台だけでしたが、そのあと少しずつ増えて、いまでは四季折々のイベントになってきましたね。
CHAJIN 季節ごとに代表選手みたいなお花があるので、年間でやるのもいいんじゃないかと思って。チューリップからミモザ、すずらん、あじさいに続いて、秋はドライフラワー、クリスマスとお正月のブーケと、いまは年7回になりました。
ろみ 鎌倉はお花好きの方が多いのかな。回が増えても、来られる方の熱は変わらない感じがします。
CHAJIN お寺にお花を見に来られる方も多いから、お花好きが集まる街なのかもしれませんね。
ろみ CHAJINさんのお花の活動は、花屋台も含めて、鎌倉の暮らしに寄り添う感じがすごくしていて、それはなぜでしょう。
CHAJIN 幼い頃から祖父がつくった庭に、いま仕事で活けているような枝ものとか切り花が家のいろんなところに植わっていて、庭の花や草が遊び相手でしたからね。
いまも同じ家に住んでいるんですけど、台所の前にヤブツバキが咲いていて、枯れたらハナミズキが咲いたりとか、すみれが地面から出てきたり、四季折々の花が変わっていく環境だから、もう刷り込まれていたのかも。
ろみ だからCHAJINさんのお花はとてもナチュラルで、リラックスした空気感があるんですね。
ロミ ユニのお菓子も季節感を大切にしながら、日常的にお茶の時間を楽しんでもらえる存在でありたいと思っているので、CHAJINさんの花屋台とは、とっても馴染みがいいなと思っています。あと、いい意味でCHAJINさんのお花は男性のフラワーアーティストっぽくないですよね。
CHAJIN 名前もどっちかわかりづらいから、花だけ見て、女性のフラワーアーティストに間違われることは今もあります。『オリーブ』を読んでいたから、女の子がかわいいと思うものを理屈じゃなく直感で分かるところはあるかなと自分でも思う。お花へのマインドは、乙女寄りの軸足というか。
ろみ 「女子校上がり」ですからね(笑)。
CHAJIN だから「清泉女学院」で本当に良かったのよ。とはいえ、当時は、あまり乙女に片寄りすぎてもいけないから(笑)、カブスカウト(ボーイスカウト)に入って、もやい結びや火起こしも一生懸命やってましたよ。
ろみ もやい結び! わたしもガールスカウトでやってました。
CHAJIN 平日は乙女の軸足で女学院、週末はカブスカウトで男を磨くのが僕の少年時代でした。それで思い出したんですけど、庭に祖父が育てていたバラ畑があって、そのバラを勝手にチョキチョキと切って、小さな荷車に載せて、ご近所に売り歩くみたいなこともやってました。隣のお手伝いさんが10円くらいで買ってくれるんです。
ろみ それって、フランスのすずらんの日でやっていることと同じじゃないですか! でも、おじいちゃんには叱られなかったんですか?
CHAJIN 叱られた記憶はないかなぁ。いま振り返ると、その頃から屋台好きだったのかも。池で釣ったザリガニをバットに並べて、八幡宮の前で売ったりしてましたからね、体育座りして。こっちは全然売れなかったけど(笑)。
ろみ CHAJINさんがお花に目覚めてくれてよかったぁ。ザリガニ方面に進んでいたら、いまごろ花屋台はなかったかもしれません。
CHAJIN 祖父に感謝ですね。
CHAJINさんプロフィール
CHAJIN(福田たかゆき)
ORIGINAL FLOWER STYLE CHAJIN 主宰。
平成7年7月7日の旗揚げ以来、雑誌や広告での花あしらい、店舗や展示会、ディスプレイの花活けの他、花エッセイの執筆など、さまざまな花の表現に従事。現在は、季節の花活けを楽しむ花教室を、鎌倉をはじめ、NHKカルチャー青山教室、朝日カルチャー横浜教室、玉川高島屋S.C.内コミュニティクラブたまがわ教室他、各地で開催中。
著書に『きょうの花活け』(誠文堂新光社刊)、『花活けのココロ』(主婦と生活社刊)、『小さな花あしらいと12ヶ月の花の話』『季節の花でつくる12ヶ月のリース』(ともに芸文社刊)がある。
紅茶好きでプロレス好きで愛猫家。鎌倉在住。
Instagram:@chajin_eye
「すずらん屋台」について
今回、ご紹介した「すずらん屋台」を5月1日(月)に鎌倉Romi-Unie Confitureでオープンします。事前予約制での販売、当日ご来店の上、CHAJINさんからお渡しする形になります。販売スケジュール等の詳細は下記関連記事でご案内しています。