人について 08. Romi-Unie Confiture焼菓子アトリエ長 くりちゃん

人について 08. Romi-Unie Confiture焼菓子アトリエ長 くりちゃん

第8回目はRomi-Unie Confiture焼菓子アトリエ長 くりちゃんついてお届けします。

romi-unieにはどんな仕事があって、どんなスタッフがどんな思いで働いているのか、お店の裏側にあるスタッフと働き方のお話です。romi-unieはほぼ100%女子という会社でもあるので、仕事を始めたばかりのスタッフからベテランまでいろんな立場での働き方もご紹介できたらと思っています。

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くりちゃんとは

Romi-Unie Confitureの焼菓子アトリエ長。製菓学校を卒業後、鎌倉の老舗洋菓子店に3年勤務。20代前半の2006年にジャムのアトリエスタッフとして入社しました。Maison romi-unieの焼菓子アトリエにも1年勤め、30歳を目前に 一度退社。翌年、鎌倉のジャムアトリエに復帰、18年に焼菓子アトリエに異動し、20年からアトリエ長になりました。「なんでもやります。でも残業だけはできません」がポリシー。クリスマスやバレンタインの繁忙期にも「残業ゼロ」を可能にし、お菓子屋さんの働き方改革を推進しています。

トータルでジャム製造歴13年

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鎌倉の洋菓子店で働いていたときから、雑誌にたびたび紹介される近くの有名店としてRmi-Unie Confitureのことは知っていました。前職を辞めるのが決まったタイミングで、なんとなく足を運んだのが最初です。お店に入ったとき、棚にジャムがずらりと並んでいたのですが、よく見ると2種類しかなくて、その日はとりあえず1種類ずつ買いました。買ったジャムは、ひとつは思い出せないのですが、もうひとつはブルーベリーとヘーゼルナッツの「キュリオジテ」です。それまでジャムにナッツを入れる発想がまったくなかったので、面白いなと。味もおいしくて、ほかにもいろいろな組み合わせを食べてみたい、と興味が湧きました。レジに小さな求人の紙が貼ってあったのを思い出して、応募しました。

 

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わたしが入社したころ、焼菓子はまだなかったので、ジャムの製造から入りました。当たり前ですが卵も粉もなくて、フルーツしか使わないところは前職と大きく違うところで新鮮でした。前の職場ではジャムをお菓子に使うことはありましたが、自分たちでゼロからつくることはなかったので、3年の経験はあってもジャムづくりは初めて。入って2週目くらいにろみさんと、桃とプラムとアプリコットのジャム「ポエット」をつくりました。緊張しながら作業したのを憶えています。

 

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続けていくうちに、製菓材料と違って果物はそのときどきで状態が違うので、一定に仕上げるのがとてもむずかしいことに気づきました。煮るだけの工程に見えますが、加工する前の果物の追熟ひとつとっても見極めが大事で、細かな判断が要所要所で必要です。それができないと毎回味がぶれてしまう。仕事を覚えても、最後まで苦労したところです。

 

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瓶詰めの作業もお菓子屋さんにはない仕事でした。入ってみてわかったのは、ジャムづくりのうちフルーツの仕込みは全体の10分の1。瓶に関わる仕事のほうが圧倒的に多く、4、5割を占めます。瓶を洗って、できあがったジャムを入れ、その後は商品チェックがあって、ここでも細かな作業が待っています。最初は見つけられなかった小さな異物やホコリなどが、集中力がついてくるとだんだん見えてくるようになることもジャム仕事で知ったことです。トータルでジャム製造は13年やりました。

焼菓子アトリエの働き方

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焼菓子製造は東京のMaisonも入れると5年になります。鎌倉のアトリエは朝8時始業で、終わるのはきっちり17時。間に休憩を1時間はさみます。朝一番にその日の作業を全員で確認して持ち場の分担を決めます。分担は仕込み担当、サブレ生地ののし担当、ケイク担当、オーブン担当に分かれます。焼き上げまで一気に進めるのですが、作業のめどがつくのは、だいたい13時ごろ。量が多いと14時を過ぎることもあります。そのあと休憩。後半は計量など翌日の準備をして17時にすべての仕事が終わります。

 

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オーブンはリンナイの卓上ガスオーブンが2台。業務用としてはかなり小さいのですが、これを駆使して、サブレとケイクを焼いています。オーブン担当になると、効率よく庫内を生かして、今日のお菓子を時間内に仕上げるにはどう段取ればよいか、焼く前に頭の中でシミュレーションをします。やり直しのきかない責任の重いポジションですが、うまくまわったときの達成感は大きいので、たいへんですが人気のある仕事です。

残業ゼロの条件

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おしりの時間を決めて計画的に仕事を組み立てるのは当たり前のことのようですが、お菓子屋さんには、終わりの時間が読めない職場が多いですね。残業があって当たり前。クリスマスやバレンタインになるとさらに遅くなるのがふつうです。最初に勤めたところもそうでした。わたしは3年で腰を痛めて重いものが持てなくなり、働き方に不安を感じて転職しました。時間的な拘束に、肉体的な無理が重なって、お菓子づくりは好きだけど、途中で苦しくなって辞める人もたくさんいますよね。

もちろん17時になったら自動的に仕事が終わるわけではありません。販売さんが立ててくれる製造計画に沿って、その日の製造数と品質をきちんと達成した上での残業ゼロです。昔、先輩に「ジャムでも焼菓子でも、自分たちは何百個、何千個とつくるけれど、お客さんにとっては、その中の大切な1個。これでいいや、という商品を一つも出さない気持ちが大事」と言われたことがあります。仕事で焦りそうになると、いまでもこの言葉を思い出しますね。

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終わりの時間が決まっていると、逆算して、いまやるべきことも見えやすくなります。担当は決めますが、チーム全体をテンポよく回すことも大事なので、周りの人の仕事も見て、あの人はいまあれをやっているから次はこれが必要で、次の段取りはこうしたほうがいいと考えるクセをつけることも大事です。そのためには、「何をしたらいいですか?」と漠然と聞くのではなく、次にやることを自分で考えてまず動いてみる。そしてわからなかったら質問する。これも同じ先輩が教えてくれたことです。でも、はじめからできる人はいません。わたしも注意されながら身につけてきた働き方です。

いまは食べるより、つくるほうが好き

小さい頃からお菓子づくりが好きで、以前は向学心で甘いものをよく食べていましたが、食べ過ぎたせいか、いまはもう積極的に食べなくなりました。それでもこの仕事を続けていけるのは、ものをつくることが好きだから。あと、自分がつくったもので、誰かが喜んでくれるところはとても大きいです。

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「ガレット・フランセーズ」は手間がかかるので、たくさん焼けないのですが、ファンの多いお菓子です(現在はお休み中)。

本当は丸いところを、ろみさんのこだわりで四角の型で焼いています。ナイフでまっすぐ生地をカットして型にきれいに入れる作業は、はじめ難しくて苦労しましたが、スポッと入るようになると気持ちよくて、プチ達成感があります。いまは生地を機械で切るようになったので、ナイフでカットする作業が少なくなったのはちょっと残念です。個人的に、生地をまっすぐに切るのが一番好きな仕事だったので。

週休二日も確保されて、仕事も定時に終わるので、働く環境にフラストレーションはありません――と、いまはこんなふうに言ってますが、入社して5年目ごろ、自由になりたくて、先のことは何も決めず、一度辞めたことがあります。1カ月フランスに行って、その後、震災が起こって、ボランティアに参加したり、異業種のアルバイトをしたり、お菓子以外の社会勉強をしました。結局1年も経たないうちに鎌倉のジャムアトリエに復職したのですが、その後も、毎年、自由になりたい病がやってきて(笑)。アトリエ長になる数年前まで落ち着かない感じだったんです。

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でも、迷いつつも辞めなかったのは、こういう働き方ができる店は、なかなか他では見つけられないだろうな、と思ったからです。romi-unieで長く働いていると、ジャムに行ったり、焼菓子に行ったり、ふつうのお菓子屋さんとは違う働き方があって、いろんな経験ができます。ふだんから自分の時間もちゃんと持てて、有給がしっかりとれるところも大きいです。わたしは旅が好きで、仕事のご褒美は旅なのですが、コロナ前は毎年、海外に行ってました。海が好きなので泳いだり、浜辺でゴロゴロ。しっかり休むと、しっかり働こうという気力が湧いてきます。この3年は出かけられなかったので、ちょっと自分を見失いそうになりましたが、来年は海外の旅もしやすくなりそうなので、そろそろ次の計画を立てて、またリフレッシュしてきたいと思っています。